里山の原風景が百年先も続くように未来を自分たちで創造する(広報誌ふれあい2025夏号) 

知る。
2025年07月28日
ふれあい誌 わたしの楽園 あきさわ園 神奈川県小田原市
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緑豊かな里山に湘南の心地よい海風が吹く、風光明媚な小田原に生まれ育った秋澤史隆さん。農作物の生産にとどまらず、里山再生や地域活性などに取り組むその思いを伺いました。
秋澤史隆さん プロフィール あきさわ園園主。神奈川県小田原市出身。東京農業大学在学時に海外農業実習などで世界各国の農業に触れる。300年以上続く農家として柑橘を中心に多品目を生産するほか、大学生や企業と連携し、未利用農作物の活用や水源里山再生、農業体験などに取り組んでいます。

※ふれあい誌面とは内容が異なります。

里山の原風景が百年先も続くように未来を自分たちで創造する

P.12~P.15 拡大PDF全ページを見る

・継承したもの百年後にものこしたい

・里山の原風景が百年先も続くように未来を自分たちで創造する

・里山の価値が伝われば自ずと存続していける

・ないものを作る 喜ばれた分が評価に

・一粒のいのちの価値をしっかり届けたい

・まとめ

あきさわ園について

あきさわ園は、みかんの生産地で有名な愛媛県や和歌山県にも劣らない、東京にほど近い神奈川県小田原市で、300年以上ものあいだ昔ながらの伝統を引き継ぎながら、みかん栽培を中心とした農園です。小田原は温暖な気候と湘南からの心地よい海風が通る、みかん栽培に最適な条件が揃っています。一つ一つの樹に1年かけて愛情を込めて育てられたみかんは、大きく甘みがあり美味しいとお客様に喜ばれています。お客様に喜んでもらえるからこそ、生産を頑張ってこれたとのことです。 あきさわ園では、これからも自然にやさしく安心安全な農業を志し、皆様に愛され続ける美味しいみかんを作り続けていくことを目指しています。 あきさわ園の最寄り駅はJR東海道線二宮駅で、東京から電車で約67分、横浜から約40分です。周辺には小田原城、曽我の梅林、湘南の海、箱根、湯河原の温泉、富士山の眺めの良い場所などがあり、観光と合わせて訪れることもできます。

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継承したもの百年後にものこしたい

温暖な気候と、太古の昔は海だった沖積土壌の岩盤・砂利・砂による水はけの良い地質の小田原では、江戸時代から柑橘栽培が盛んに行われてきました。この地で300年以上続く「あきさわ園」では、代々続く柑橘類を中心に、キウイやブルーベリー、ブランド野菜の「下中たまねぎ」などを栽培しています。園主の秋澤史隆さん(45)が案内してくれました。点在する畑は合計で東京ドーム1個分(約4.6㌶)ほどあるそうです。
みかん畑には点々と土蔵があります。中を見せてもらうと、約5㍍の高さまで、木箱の引き出しがびっしりと並んでいました。ここでみかんを貯蔵・熟成させるのが昔ながらの製法なのだそうです。 「木箱に書かれた文字は祖父や高祖父の名前。丁寧に作られて、今も現役なんです」 木箱も、土壁とヒノキで造られた蔵も、とてもていねいに手入れされており、秋澤さんの先人たちに対する敬意が伝わります。秋澤さんの祖先は、この里山を守ったひとりでした。 

 

「戦時中に、食糧増産の施策で、みかんの木を切って畑にし、芋を植えるように指令が出たことがあったそうです。でも、曽祖父たちは『みかんの木は育つのに30年以上かかるから』と、なんとか交渉してみかんの木を守ったんです」 100年以上前から受け継がれた道具や蔵を見やり、秋澤さんは100年先のことに思いを馳せます。 「この地に生まれ育った自分が、課題だらけのこの里山や農業を、『いまここから変えていかないと』って思うんです」

 

里山の原風景が百年先も続くように未来を自分たちで創造する

秋澤さんは、東京大学の農業サークルと株式会社アグリアンを立ち上げ、学生たちと遊休農地を開拓し「下中たまねぎ」の生産・販売をしています。遊休農地を保有者から預かって管理することも、取り組みのひとつ。再生中の標高130㍍のみかん畑へ案内してもらうと、そこにポツンと建つ蔵が目にとまりました。 「ここは里山再生や農作業の人たちに開放する、管理棟にしようと思っています。資材は里山の木や竹、土を使った昔ながらの工法で造っているんです」 クラウドファンディングで一部の資金を集めながら、大学生やボランティアと協力してリフォームを進める秋澤さん。許可をもらっているとはいえ、自分の所有物ではない蔵に、身銭を切ってまで整備する理由をたずねると、秋澤さんはこう答えました。 「この美しい景観、環境なんですよ。持ち主に返すことになっても、みんながここを良いと思ってくれればそれでいいんです。100年続く里山のために、いま価値を伝えることがやるべきことだと思っています」
丘から見下ろす景色と鳥のさえずりは、まるでリゾート地のようで心が洗われます。しかし、ここに来る途中には、竹が侵食して荒れてしまった畑もありました。人が入らなくなった里山は、みるみるうちに荒れてしまいます。ひとりでも多くの人が思いを寄せ、里山を手入れすべき対象に戻すことが命題となっています。

 

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里山の価値が伝われば自ずと存続していける

秋澤さんの父・芳雄さんは、1970年代にアメリカで農業研修を経験し、苗の販売などあきさわ園の新たな道を切り開いた存在です。芳雄さんからビジネスの面白さを聞き、お菓子やケーキなど「ないもの」を自分で作る面白さや、理科の実験が好きだった秋澤さんの創造力が刺激されたといいます。 高校では培養研究などのバイオテクノロジーに熱中し、東京農大進学後は、海外移住研究部に所属。アジア・アフリカ・南米を巡り、開発途上国の農業やまちづくりに触れました。 「先輩が暮らしていたアマゾン奥地では、4軒の農家が、村のインフラを含め、約400人の暮らしを経済的に支えていました。農業の尊さや価値を改めて感じるだけでなく、自分の生きる意義を考える時間にもなりました」

あきさわ園の特色は、防腐剤やワックス等は使用せず、自然の仕組みに逆らわない持続可能な農業です。そのひたむきな姿勢や熱意に、人の縁が引き寄せられ、ブルガリやラルフローレンとコラボしたフードロス削減プロジェクトにも参画しました。

ないものを作る 喜ばれた分が評価に

子どもの頃は、農家を継ぐことに積極的になれずにいたという秋澤さん。心を動かしたのは、高校進学のときに聞いた、父・芳雄さんの言葉でした。 「親父が『農家は社長。自分のやり方で、自分が良いと思うものを作って、お客様に喜んでもらえたらそれが評価。人に喜ばれた分だけ儲かる、こんな楽しい仕事は他にない』と、話してくれて。それならいいかもって思えたんです」
未利用農産物の活用においても、秋澤さんは思うことがあります。 「例えば、以前は7~8月に大きさや見た目によって生育途中に間引いたみかん達は、全て廃棄していました。それをレモンの代わりに使ってもらおうと、飲食店へ販売したら、価値あるものとして買ってもらえたんです。ニーズをしっかり捉えて、ひと粒のいのちの価値をみなさんに届けることの大切さを学びました」 事業開始当初、周囲には廃棄予定のものをに使うのに気が進まず、静観していた農家仲間もいたそうですが、秋澤さんのつき進む姿に力をもらい、結果として地域全体のフードロス削減や有益化につながっているそうです。

 

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一粒のいのちの価値をしっかり届けたい

これから整備する予定の遊休農地を歩きながら、秋澤さんはこう話しました。 「海から3㌖で、棚田もあるし、野うさぎやキジもいて、すごく平和なところ。海もあるし、都心にだってすぐ行ける。こんなにも豊かなところを諦めるなんてもったいない。課題だらけだけど、やりたいことだらけで楽しいですよ」 人が「良い」と思うことが存続の秘訣。そして誰よりも秋澤さん自身がこの里山を「良い」と思い、それに引き寄せられるように人が集まってくる様子が伺えました。

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まとめ

神奈川県小田原市で300年以上続く「あきさわ園」園主の秋澤史隆さんは、柑橘栽培の伝統を守りつつ、里山再生や地域活性化に情熱を注いでいます。東京ドーム1個分の広大な畑で多品目を生産する傍ら、祖先が守り抜いた歴史ある蔵や道具を大切にし、100年先の里山を見据えています。

秋澤さんの取り組みは、単なる農業にとどまりません。東京農業大学での経験や世界各国の農業に触れた知見を活かし、東京大学の農業サークルと連携して遊休農地の開拓・活用を進めています。クラウドファンディングを活用し、里山の木や土を使った昔ながらの工法で管理棟をリフォームするなど、持続可能な社会への貢献も意識しています。

また、秋澤さんはフードロス削減にも積極的です。これまで廃棄されていた間引きみかんを飲食店に販売するなど、未利用農作物の新たな価値を創造し、地域全体のフードロス削減にも貢献しています。これは、「お客様に喜んでもらえた分が評価になる」という父親の言葉に影響を受けた秋澤さんの「ないものを作る」という創造性が生み出した成果です。

海から近く、豊かな自然に恵まれた小田原の里山を「諦めるのはもったいない」と語る秋澤さん。課題に満ちた現状を楽しみながら、多くの人々を巻き込み、里山の価値を次世代へと繋ぐ挑戦を続けています。

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