農福連携のスキームが農業と福祉の課題を解説するカギに(広報誌ふれあい2025夏号) 

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2025年07月25日
ふれあい誌 農山漁村Biz ノウフク連携 べジポケット
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「国内農業の発展と共生社会の実現」を掲げ、農福連携事業で農家と企業と福祉の三者がそれぞれ抱える課題の解決を図っています。農福連携の拠点となる農福ポートは、この5年で関東と東海に計9カ所開設され、各地で障がい者が活躍しています。その中で、今年2月に開設された横浜中央事業所では、JA横浜の直売所との連携をスタートしました。

JA横浜は、「ハマッ子」直売所南万騎が原店を、農福連携をテーマにした新しい直売所「ベジポケット」として2025年4月1日(火)にリニューアルオープンしました。JA横浜では、2023年度から農家の労働力支援や障がい者の社会参画を目指し、(株)農協観光と連携した農福連携施策を運用しています。「ベジポケット」を通じて、障がい者が農作業から販売までの一連のプロセスに携わることで、地域住民との交流を深め、自信を持って社会参画できる環境を整えることを目指しています。このような農福連携をテーマにした直売所の設置は全国的にも珍しい事例です。

※ふれあい誌面とは内容が異なります。

農福連携のスキームが農業と福祉の課題を解説するカギに

P.07~P.11 拡大PDF全ページを見る

・旅行業に降りかかったコロナ禍のピンチ

・労働力不足と社会参画のマッチング

・事業をアピールする独自の施策も

・農福連携の取り組みを消費者にも伝えていく

・思い描いた未来にはまだ遠いけれど

・まとめ

農福連携に関わる事業は2020年度から本格的にスタート

株式会社農協観光は、主に旅行業を通して農業の価値を高め、魅力を伝えることを目的としてきましたが、農福連携に関わる事業は2020年度から本格的にスタートしました。農福ポート横浜中央事業所の池田亮直所長によると、それ以前から事業多角化の一環として農福連携というテーマはあり、観光と農福連携をつなげられないか、また障がい者雇用が農業の労働力不足解決策の一つになると考えて構想を進めていたとのことです。しかし、新たな事業に人員を割くことが難しく、進捗は牛歩の歩みだったといいます。

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旅行業に降りかかったコロナ禍のピンチ

「新型コロナの流行によって旅行の売り上げが大幅に落ち込んでしまった」ため、旅行業一本の経営では立ち行かないと社内の危機感が一気に高まり、農福連携事業を急ピッチで進めることになった、と池田所長は語ります。それから1年足らずの2021年2月に、最初の農福ポートが浜松に開設され、事業は2022年にアグリンピア®事業と命名されました。


農福連携のスキームが農業と福祉の課題を解決するカギに

農協観光が行うアグリンピア®事業は、農家の高齢化などによる「労働力不足」と「障がい者の社会参画」をマッチングするものです。池田所長は、「現在、従業員40人以上の事業主に障がい者雇用の義務がありますが、必ずしも障がい者の特性に合った業務がある企業ばかりではありません。すると、そういった企業では障がい者のサポート人員が必要になりますし、社内で不満が出ることもあります。そして、仕事が合っていないと障がい者の離職率も高くなってしまいます」と説明します。
この課題に対し、自社内で障がい者の人たちに担当してもらう仕事を作り出すのが難しいと考えている企業が、農業をスポンサードする形でこの事業に参画すれば、障がい者雇用を充足させていくことができる、と池田所長は言います。簡単にいうと、労働力を必要とする農業と働く場所を必要とする福祉を直接つなげるということです。

 

• 仕組み:
    ◦ 福祉事業所や特別支援学校の障がい者は、農協観光を経由して、雇用を希望する企業に就職します。
    ◦ そして、この事業を利用している生産者の元で実務を行います。
    ◦ その拠点となるのが、農福ポートです。
    ◦ サポートスタッフ1人を含む4名を1ユニットとして、農福ポートに出勤した後に、生産者の元へ赴き、農業に従事します。
    ◦ 業務は、農産物を出荷できる状態に整える調整作業や袋詰め、シール貼りなど、さまざまです。特に農機具を入れられない圃場での作業に適していると副事業所長の山﨑敦志さんは語ります。

 

労働力不足と社会参画のマッチング

・人材マッチング:
    ◦ 「農業をやりませんか?」と言ってもピンとこない人が多いため、「デスクワークよりもフィールドワーク、体を動かす仕事をしたい方はいませんか?」と伝えます。
    ◦ そこで興味を持った方には、5日間の研修会に参加してもらい、農作業を体験してもらいながら、相手の人となりを知ることができます。

• 安定した就労環境:
    ◦ 研修会などを通して仕事が合っていそうか判断できること。
    ◦ 農繁期など期間限定の雇用ではなく、雇用している企業から安定した給与が支払われること。
    ◦ サポートスタッフがチームを統制すること。
    ◦ 健康面のケアを行うことなど。
    ◦ これらの安心できる環境を整えることで、障がい者雇用の1年後定着率は90%にもなるといいます。

生産から販売を一気通貫した農福連携のポイント
各地に農福ポートが増える中、神奈川県で2カ所目となる横浜中央事業所は、直売所との連携という新たな試みを持っています。自然に囲まれた住宅地にあるJA横浜の直売所「ハマッ子」が、農福ポートの開設に合わせて農福連携をテーマにした直売所「ベジポケット」にリニューアルしました。

1. 「農福ポート」の設置
    ◦ ベジポケットの敷地内に、農福連携で農作業を行う拠点施設となる「農福ポート」が設置されました。
    ◦ 農福ポートは、障がい者が出勤する施設で、障がい者はこの施設から作業依頼をした農家のもとに出向きます。
    ◦ JA横浜では、これまで都筑区内にある農福ポートを拠点に横浜市北部エリアで活動していましたが、今回の2カ所目の農福ポート新設により活動エリアを拡大します。

2. 「ノウフクバス」の運行
    ◦ ノウフクバスは、直売所で販売する野菜を集荷してまわるベジポケットの専用車両です。
    ◦ 農家は専用アプリを通じてベジポケットへ連絡し、連絡を受けた障がい者チームが農家の軒先まで野菜を集荷してまわり、ベジポケットに並べ販売します。
    ◦ 農家は「家や畑まで野菜をとりにきてもらえて本当に助かる」と大変好評です。
    ◦ ノウフクバスは毎週1回、管内農家の軒先をまわって野菜の集荷を行います。
    ◦ 農協が買い取るため、生産者が直売所に持ち込む手間がなく、買い取りもしてくれるのは大きなメリットです。

3. 「農福野菜」の販売
    ◦ ベジポケットでは、通常の野菜のほか、障がい者が生産に携わった野菜を「農福野菜」として販売します。
    ◦ 販売を通じて、障がい者は自身が生産に携わった農産物がお客様の手に届く瞬間を体感でき、「ありがとう」という言葉が自信とやりがいにつながります。
    ◦ ここで貼られるシールには「JA横浜 農福連携」の文字が書かれており、農福連携で作られた野菜だと一目でわかるようになっています。
    ◦ 消費者に農福連携の取り組みを知ってもらう機会にはなっています。しかし、副事業所長の山﨑さんによると、通常の野菜と比べて安くないため、「農福連携だから買おう」と思ってもらうところまで至っていないのが今の課題だと語ります。

 

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事業をアピールする独自の施策も

池田所長は、参加している企業のロゴマークをシールに入れることで、農作物を広告媒体として活用することもできるのではないか、と考えているようです。将来的には、人とかかわるのが好きな障がい者スタッフに、店舗やマルシェでの接客もやってもらいたいと考えています。

農福連携の取り組みを消費者にも伝えていく

ベジポケットが目指す姿

• 新鮮野菜で“ワクワク”と“楽しい”を届けよう
    ◦ 従業員が自信とやりがいを持ち、お客様が楽しみながら買い物できる場所にします。
• ここにしかない直売所づくりに挑戦しよう
    ◦ 従業員の創意と工夫で、横浜市唯一の直売所づくりに挑戦します。
• お客様と農家、従業員の温かな調和を目指そう
    ◦ 従業員は農家とお客様を繋ぐ架け橋となり、横浜の農業を中心にした調和を目指します。
ベジポケットのロゴ
• 「ベジポケット」を包み込んでいる緑色の部分は、地域と福祉をつなぐ手、支え合う手、そして野菜をイメージしています。
• 「ポケット」には、小さいけどワクワクが詰まっている直売所にしたいという思いが込められています。

 

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思い描いた未来にはまだ遠いけれど

事業立ち上げ当初から関わっている池田所長は、まず参加企業の確保に苦労し、「この事業は大丈夫だろうか…」と思ったこともあったといいます。 「最初の企業が決まるまで約半年。どんな企業が興味を持ってくれるのかもわからないので、ひたすら飛び込み営業でしたね。効率が悪いやり方ですが、それしかなかったので」と振り返ります。
6年目を迎えた今の手応えについて尋ねると、池田所長は「当初はもっと広げられると思っていたので、思い描いた理想通りではないです。それでも数年経って、なんだかんだで300名を超える人が毎日農業の現場で働いているというところまで持ってこられたので、これからも地道にやっていくしかないです」と率直な言葉が返ってきました。
一方で、「生産者さんからは、誰でもできるような作業を自分がやらなくともよくなり、楽になった、気持ちの余裕が生まれた、というような声をたくさんいただいています。まさにそういう作業に障がい者スタッフの需要があると考えてスタートしたので、その考えは間違っていなかったと思います」と話し、今後の発展に手応えをつかんでいるようです。
また、障がい者スタッフへのアンケートでは、「体調が良くなった、薬が減った、夜眠れるようになった」という回答が多くあります。農作業をするようになり、昼間は日に当たって思いっきりくたびれて帰ると、夜はしっかりと眠れるので、体調が良くなって薬を抑えることができるという好循環が生まれるようです。池田所長は、「こういう話を見聞きしていると、すごくやりがいを感じますし、うれしいです」と語ります。
それぞれに不足しているものを補う仕組みによって、農業の未来に新しい可能性を広げた農協観光の農福連携事業。ベジポケットをはじめとする、今後の展開に期待が高まります。

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まとめ

ピンチをチャンスに変える「農福連携」の挑戦

コロナ禍で旅行業が打撃を受ける中、株式会社農協観光は、かねてからの構想であった「農福連携」事業を本格化させました。農業の労働力不足と障がい者の社会参画という二つの社会課題を同時に解決する画期的な取り組みです。

その中核となるのが、障がい者が農作業に従事する拠点「農福ポート」です。現在、関東と東海に9カ所開設され、障がい者が地域農業の担い手として活躍しています。特に注目すべきは、JA横浜が2025年4月にリニューアルオープンした直売所「ベジポケット」との連携です。

「ベジポケット」では、敷地内に「農福ポート」を設置し、専用車両「ノウフクバス」で障がい者チームが農家の軒先まで野菜を集荷に回ります。さらに、障がい者が生産に携わった野菜を「農福野菜」として販売することで、お客様は社会貢献を実感でき、障がい者は働く喜びと自信を得られます。生産から販売までを一貫して行うことで、より深い社会との繋がりを生み出すユニークな試みです。

「ノウフク」という言葉の認知度はまだ低いですが、農協観光とJA横浜の取り組みは、この分野を広く伝え、共感を得るための重要な一歩となります。温かい家のような「ベジポケット」が目指すのは、お客様、出荷者、従業員すべての人が“HAPPY”を感じられる場所。逆境を乗り越え、共生社会の実現に向けた確かな未来を切り拓く農協観光の「農福連携」は、今後の日本社会における新たなロールモデルとなるでしょう。

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